難治性腹水
ascites難治性腹水は、全身状態を著しく悪化させる病気です。
当院ではCARTを積極的に取り入れています。
近年の医療進歩により、肝硬変の患者様は薬によって腹水が改善するケースが増えています。しかし、依然として薬だけでは改善しない難治性腹水に悩む患者様も多く存在します。
難治性腹水は、強い腹部膨満感、呼吸苦、食欲不振などを引き起こし、全身の健康状態を著しく悪化させます。特にがん性腹膜炎では、がん治療の継続が難しくなり悪循環が生じます。
腹水を抜くと栄養分も失われ、結果として衰弱が進むと考える医療関係者は多く、これは最終手段とされてきました。
当院は難治性腹水でお悩みの患者様のお役に立ちたいと考え、要第2クリニック(東京都)で松﨑圭祐医師から直接指導を受け、2019年4月よりCARTを開始しました。腹水が解消されると患者様の食欲が回復し、痛みが和らぎ、呼吸苦も軽減されるなど、生活の質(QOL)が著しく向上するケースもあります。いまだに根強く“抜くと弱る”と考えられている難治性腹水ですが、“抜くと楽になって体力の改善につながる”治療を行っております。
難治性腹水とは
難治性腹水とは、内服や点滴ではコントロールできない異常な量の腹水が蓄積し、お腹の張りや食事制限が生じる状態を言います。長期間の食事制限が栄養不良や体力低下につながり、免疫力の低下を引き起こす可能性があります。
難治性腹水になる原因
腹水の主な原因は、炎症によるものと炎症以外のものがあります。
炎症が原因の腹水
お腹の中で炎症が起こり、血管内の成分が腹水としてたんぱく成分を多く含みます。代表的な原因は「がん性腹膜炎」で、がん性腹膜炎は胃がん、大腸がん、膵臓がん、卵巣がんなどが挙げられます。
炎症以外に原因がある腹水
血管内の水分が血管外に漏れだし、たんぱく成分が少ない特徴があります。主な原因には肝硬変、腎不全・ネフローゼ症候群、心不全などがあります。
難治性腹水の症状
難治性腹水の症状は、腹水の蓄積によって引き起こされるものであり、以下のような症状が現れる可能性があります。
腹部の張り
腹水が蓄積することで腹部が膨らみ、張りを感じることがあります。
食欲不振
腹水の圧迫により、胃や腸が圧迫され食欲が低下することがあります。
体重増加
腹水の蓄積により、体重が急激に増加することがあります。
呼吸困難
大量の腹水が膈を圧迫すると、呼吸が制限され呼吸困難が生じることがあります。
腰痛
腹水が圧迫されることで、腰部に痛みが現れることがあります。
足の浮腫
腹水の影響で体液の循環が妨げられ、足の浮腫みが起こることがあります。
悪心・嘔吐
腹水の圧迫が消化器系に影響を与え、悪心や嘔吐が起こることがあります。
これらの症状が現れた場合、早めの受診をしてください。
難治性腹水の治療方法
腹水濾過濃縮再静注法(CART=Cell-free and Concentrated Ascites Reinfusion Therapy)
体から抜いた腹水をフィルターで濾過し、栄養分のみを点滴で体内に戻す治療法です。栄養分の喪失が抑えられるため、体力を落とさずに症状緩和が図れます。
腹水穿刺排液
腹水を抜く方法。
腹水穿刺排液+アルブミン静注
腹水を抜きつつ、アルブミンを補充する方法。
腹腔・静脈シャント(P-V シャント)
腹水を静脈に流すために腹腔と静脈をつなぐ方法。外科的処置が必要。
経頸静脈肝内門脈大循環短絡術(TIPS=Transjugular Intrahepatic Portosystemic Shunts)
肝臓内にステントを入れ、新しい血液の通り道を作る方法。
当院で行うCART(腹水濾過濃縮再静注法)
従来のCARTは、フィルターが目詰まりを起こすと濾過ができなくなってしまうため、処理できる腹水量には制限があります。
特にがん性腹水は腹水中に細胞成分が多く含まれ、すぐに目詰まりが生じるために、がん性腹水に対するCARTはなかなか普及が進んでいないのが現状です。
そのため、現在要第2クリニック腹水治療センター長である松﨑圭祐医師が改良型CARTを考案いたしました。この方法により、目詰まりを起こしたフィルターを洗浄することで腹水濾過を継続することが可能になりました。
理論上は無制限に腹水の処理が可能になるため、原則として腹水を全量抜水します。腹水を全量抜水することで、腹水貯留による症状は最大限に緩和され、腹水中に漏れ出ていた豊富な栄養が静脈内に戻されるため、体力の改善も顕著となります。
CART(腹水濾過濃縮再静注法)の流れ
初診では、しっかりと問診と診察を行います。
CARTの適応があると判断した場合、入院の予約をしていただきます。※即日入院も可能です。
入院は原則として2泊3日です。腹水貯留による脱水症状などがみられる場合、前日に予め点滴を行います。
入院2日目に、腹水の穿刺・抜水を行います(原則として腹水をすべて抜水します)。
抜水した腹水は、その日のうちに濾過・濃縮を行い、点滴で静脈内に戻します。
腹水の濾過・濃縮には、およそ1時間から3時間程度かかります。
退院となります。
腹水の貯留状況によっては、CARTを繰り返し行うケースもあります。
CARTの実績
年 | CART |
---|---|
2023 | 34 |
2022 | 54 |
2021 | 44 |
2020 | 91 |
2019 | 37 |

手術費用
1割負担 | 3割負担 |
---|---|
約25,000円 | 約65,000円 |
差額ベッド代は別途
よくあるご質問
他院で治療中ですが、当院でのCARTを希望する場合どうすればよいですか?
現在、他院で治療中であれば、主治医の同意および紹介状をお持ちください。その上で、できるだけ早く受診をご予約ください。紹介状が遅くなる場合、主治医に確認さえとれていれば、紹介状は後日でもかまいません。
CART治療までの流れを教えてください。
入院当日もしくは外来初診時に必要な検査(採血、CT等)を行います。検査結果によってはCARTの適応にならない場合があります。(高度貧血の場合は、事前に輸血が必要となります。)
CARTにかかる費用を教えてください。
1割負担 3割負担 約25,000円 約65,000円 差額ベッド代は別途
CARTの緊急対応は可能ですか?
初回患者様の夜間・休日の緊急CARTは原則おこなっていません。